本研究では、フランスの学校に通う移民の子どもを中心にかれらの置かれている生活、文化的状況と学業達成の関連性について考察した。特に、かれらの家庭での使用言語と学校での使用言語との間にどのような関係があるのか注目した。 フランスでは、19世紀半ばからすでに2%近い外国人を数え、移民受け入れ大国としての経験は長い。しかし、基本的に今日まで同化型の教育を強いてきた経緯がある。ゆえに、従来の移民の子どもの学業成績、学業達成においては、フランス人の同年齢層よりも低いという評価が教育界の一般的なイメージであった。また、ブルデューをはじめとする社会学研究からも、家庭と学校との文化的連続性を学業の成功の要因として重視してきたため、移民のように非連続的な文化を持つ子どもは学業上不利になると考えられてきた。 しかし、本研究では、1989年度にフランスの中学校に入学したフランス人と外国人の生徒合わせて、約1万8千人を対象に4年間の追跡調査を行い、移民(外国人)の国籍以外の社会背景をも指数に加えながら、主にかれらを取り巻く家庭環境と学業との関係に注目した。 その結果、確かに家庭の文化と学校文化との間に近似性がある方が学業失敗を招きにくく、そのため、移民の子どもの場合、小学校前の就学前教育の年数が小学校低学年での落第率を防ぐ役割を果たしていることがわかる。また、上記の2つの文化の摩擦は、進学とともに和らいでいくことも判明した。従って、進路指導の時期が高校に進学する時までなくなった近年の統一コレージュ政策の恩恵をこれら移民の子どもが受けていることまた事実である。 ただし、家庭での使用言語と学業達成には、必ずしも連続性が求められないことがみられた。つまり、家庭の文化資本が学校の文化(言語文化)と異なる移民の場合には、学業上の不利となることが強調されてきたが、一律にそのような結果はみられなかった。むしろ、バイリンガリズムの研究から提唱されているような、出身文化・言語の保障と尊重による出自への誇りが、かれらの学業達成にプラスに働くという点に、より注目することが重要な課題として浮上した。
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