今年度は、オセアニア地域の中でもオーストラリア先住民への学校教育に関する研究を進めていった。連邦政府段階では、現在、先住民の教育的な意思決定への「参加」や教育機関への「アクセス」、「就学」、そして「教育成果」の向上という四つの基本理念が先住民を対象とした教育政策を推進するに当って重要とされている。これらの理念は、それぞれ相互に関連し、補完しあっている。つまり、先住民自らの意思決定への参加を通して、教育的な環境を整えることを第一の前提としている。そして、オーストラリア全域において各種教育段階へのアクセスが実現し、就学率や出席率も上昇する。そして、先住民の教育成果の向上が実現していくことを想定している。そして、この成果の上昇が結果的には、先住民の社会経済状況の向上や社会的な公正の実現を後押しすると考えられている。このそれぞれの理念を実現する為に、様々な教育計画が現在実施されている。特に教育成果の実現については、英語を核とした基本的な言語処理能力と、数的な運用能力の向上に焦点を絞っている。 1989年には、連邦政府と八つの各州や準州が、四つの基本理念を重視するとの合意がなされた。基本的には、連邦政府が提示した四つの基本理念をもとに、各州の教育政策は策定されている。しかし、各州における先住民を取り巻く環境は異なっている。その為、政策の実施過程等を考慮すると、それぞれの特徴が浮き彫りにされる。例えば、北部準州では、英語を第二言語としている先住民が多い為、英語に関する基本的な事柄を教えることを重視している。また、クイーンズランド州ではアボリジニと共に、トーレス海峡島嶼民も住んでいる。その為、この二つの先住民「族」に対する教育政策には共通点と共に相違点も多く見出すことができる。 来年度は、これらの各州の特徴を明確にした上で、ニュージーランドなどの先住民に対する教育政策の分析を進めていきたい。
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