1.現代のイギリス高等教育について、特に1960年代における二元制度の確立以降、高等教育が国家政策の主要な対象として位置づけられ、元来プライベート・セクターとしての性質を有する大学と政府の間にいかなる緊張関係を生み出しかつ変化しつつあるのか、収集された文献資料に基づいて整理した。今日のイギリス高等教育政策はかねてより科学技術振興が国家の経済戦略の中で主要な位置づけを与えられる中で、政策対象としての大学あるいは高等教育の重要性が認識されるようになり、また、今日では知識経済の進展とともに政府・産業界などの学界以外の領域とのより一層の連携・協力を図ることで経済成長のエンジンとしての役割を政府主導あるいは市場主導の下で成し遂げようとしていると解釈した。 2.上記のような政策の下で、強固な評価システムと競争的な資金配分システムが確立され、かつ、高等教育制度の一元化が図られることで急速に量的な拡大を果たしたときに、各大学あるいは高等教育システムが全体としてどのような影響を受けたのかについて検討・考察した。旧来からの伝統的大学群と1960年代以降ポリテクニクとして設立され、1990年代初頭に新たに大学に昇格した非伝統的大学群の間に研究面のみならず教育面においても格差があることが明らかとなった。非伝統的大学群では成人学生やパートタイム学生などの、旧来のポリテクニクにおいても多く見られたタイプの学生をより多く受け入れる傾向にあり、「大学」として同じ格付けを得ていてもその内実には異なる状況があるといえる。アメリカや日本等の大衆化した高等教育システムにおいても、このような大学間の機能分化(あるいは分極化)は常に見られる現象ではあるが、イギリスの場合このような機能分化が決して自然発生的なものではなく意図的に導出された点に大きな特徴があるといえる。 3.今後このような現代イギリス高等教育システムの動向について、大学群の比較のみならず専門分野間の比較検討、大学教員の人事の流動性等、さらに多様な側面からの比較検討を進めながら、「イギリス型大衆化」の諸特徴をより詳しく検討するための研究を展開する。
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