現代キューバにおける経済状況とサンテリーア信仰の再活性化の連関について、文献調査および現地調査を実施し、以下の諸点について新たな知見を得た。 1.90年代以降のキューバにおける貨幣(ドルおよびペソ)の過剰な流通が、サンテリーア信仰をめぐる知識・実践の金銭的取引を活性化させ、その価格を継続的に上昇させてきたこと。 2.信仰をめぐる知識・実践が金銭的に取引されることに関し、「文化の売春」「信仰への冒涜」であるといった否定的見解がひろく共有されながらも、他方で、より高価な知識・実践が「より価値のある正しい」知識・実践として流通するというアンチノミーが、信仰の実際においてその矛盾を先鋭化させることがないこと。 3.信仰対象である複数のサント(オリッチャ)を包括的に秩序化する「超越的シニフィアン(=至高神)」の存在が、知識としてひろく共有される一方で、その存在が、供犠や占いなどの儀礼的実践においては無化あるいは曖昧化される傾向があること。 4.政府・学的権威・外国メディアなどとの連繋をさぐることによって、複数の団体が信仰者の組織化(階層化・党派化)を試みる一方で、知識・実践の経済的流通がつくりだす信仰者間の横断的で柔軟なネットワークが、組織化の試みを継続的に切り崩していること。 研究代表者は、文献調査および現地調査を引き続き実施し、2.3.4.であげた諸事項の論理的連関について究明する予定である。
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