本研究が対象とする太平洋芸術祭は、4年に1度、2週間にわたって開催される太平洋地域最大のイベントである。2000年にはニューカレドニア・ヌーメアにおいて第8回太平洋芸術祭が開催され、筆者がフィールドワークを続けてきたミクロネシア地域からも多数が参加した。また、次回2004年第9回太平洋芸術祭は、ミクロネシア地域で初めて、パラオ共和国で開催されることとなっている。 そうしたことを踏まえ、本研究では、第8回太平洋芸術祭に参加した地域の、参加後の動きに注目し、芸術とアイデンティティの関係を明らかにするという視点から、調査研究を行なってきた。まず第1点目として、芸術祭への参加者さらに住民は、それぞれの地域でどのような理念や思惑を抱いているのか、政治的な配慮、反応など、多角的な視点から、フィールドワークに基づいて観察・記録を行なった。さらに第2点目として、そうしたデータに基づき、芸術祭を媒介にして、ミクロネシアの人々がどのように「国家」や「地域」さらには「芸術」を認識しているのか、あるいは認識するようになるのかを把握しようと試みた。その際、ミクロネシア地域のアメリカ合衆国準州グアム、北マリアナ諸島米国自治領、パラオ共和国、ミクロネシア連邦を取り上げ、比較検討を行なった。 初年度の成果を受けて、2年目には、この調査研究で得られた芸術というものが果たす文化的・社会的役割に関する知見をもとに、ミクロネシアにとどまらず、広く太平洋地域や日本を含むそれ以外の地域に関する同様の文化現象と比較することによって、人間にとっての芸術の意味を問い直す手がかりを得たいと考えている。
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