マダガスカル南西海岸部の一漁村について聞き込みをおこない、以下のような環境=経済的変化が明らかとなった。村の生活が大きく変化する画期は、漁獲物の商品化が進展する1970年代である。この時期、州都と地方都市を結ぶ陸路が整備されるのにともない、ナマコやイセエビなどが高価格で取引されるようになったほか、村民の一部が他の村民から鮮魚の買いつけをおこなうようになった。また、ナイロン製魚網や水中メガネなども普及した。こうした変化が起こって30年にも満たない現在、いずれの魚種についても漁場が村から遠ざかり、全体的に漁獲量が減ってしまったと漁師たちは証言する。つまり、流通経路の整備と漁獲技術の向上が漁場環境の劣化を招いたのである。このように、経済的変化が漁場環境を変化させたいっぽうで、環境劣化への対処として漁民たちは新たな漁場を開拓し、季節的出漁という新しい経済活動を定着させていった。すなわち、環境の変化と経済の変化は相互影響するかたちで展開してきており、漁民自身もそのように認識しているのである。 以上から、漁獲対象や漁法の変化についての聞き込みにより、自然環境と経済環境の両方が変化していくさまを追跡できることが明らかになった。この変化の過程は、単なる環境史ないし経済史というより、生活史をめぐる自然環境的側面と経済的側面といった方がよいかもしれない。これを改めて環境史・経済史と呼ぶためには、さまざまな生活史的背景を持つ語り手から資料を集めて整合性を見出すとともに、文字資料との照合をもおこなう必要があろう。
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