これまで調査を継続してきたマダガスカルが政情不安のため、2002年度は渡航を自粛し、昨年度までの調査成果をとりまとめた。1970年代以降の経済変化と漁場環境変化、とりわけナマコやフカヒレの採取活動の変遷に関しては雑誌論文を現在作成中であるが、このほかに、国立民族学博物館で開催された文部科学省国際シンポジウム「先住民による回遊性海洋資源の利用と管理」(代表者:岸上伸啓)において研究発表をおこなった。この時の発表は、英語論文集所収の論文としてすでに原稿を準備しており、現在校正が進められている。 国内における漁村調査の成果も、とりまとめ中である。これまでの漁民研究では、明治期における南西諸島での漁民拡散が詳しく研究されてきたが、今年度おこなった調査で明らかになったのは、奄美諸島や八重山諸島で昭和初期頃に沖縄漁民が移住したことにより、都市の魚市場や漁村の形成が促されたという事実である。また、村の地先における干潟利用について詳しく聞き込みをおこなったところ、太平洋戦争や本土復帰、バブル好況期など、日本の政治経済の画期に干潟利用の状況や干潟環境が大きく変わってきたことも明らかになった。その反面、職業的漁業者以外の人々が多様なかたちで今なお干潟に出かけ、さまざまな小動物をなかば娯楽として採取している実態も明らかになった。これらに関しては今後補足調査をおこない、文献による裏づけをとってから成果を公表する予定である。
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