(1)遍歴職人の一つ船大工について、拠点的地域だった倉橋島を素材に分析した。そのさい職人それだけをみるのではなく、造船業の資材の獲得から需要地にいたる一連の過程のなかに位置づける方法を提唱した。そしてとくに瀬戸内海地域にあっては船市や船入札とよばれる独自な販売ルートがあり、それとの関係で造船業の、市場も存在していたことに、地域的な特質をみいだした。 (2)また一定の範囲を移動するという意味では遍歴職人と共通するはずの日用存在について、武家奉公としての需要から検討した。直接分析対象とした徳山藩にあっては武家奉公人市場の枯渇から、18世紀末に領内からの徴発に踏み切った。しかし都市域での雇用と競合してしまい、わずかな期間でこの政策は破綻してしまった。この一連の経緯から日用存在の展開のあり方を考察した。 (3)さらに近年提唱されている身分的周縁論の研究史上の位置づけを考察する論考も発表した。80年代の身分論からの発展として身分的周縁論が90年代半ば以降提唱されているが、それは単に周縁的な存在への注目を喚起するにとどまらないで、近世社会全体をとらえる方法的な提言となっていることを述べた。
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