本年度は、内務省衛生局の長与専斎や後藤新平らが構想し、全国に普及を図った衛生組合について、神戸市の事例を対象に、その実態分析をおこなった。 衛生組合とは、近世の五人組を模し、10世帯から20世帯を一組とする隣保を基礎として編成された地域住民組織である。これまでこの衛生組合については、いくつかの論考において触れられてきたものの、必ずしも充分な検証がすすめられたとは言い難い状況にある。そこでは、同組織は、単純に警察的取締の末端を担う官治的組織とされるか、あるいは都市部における市会議員選挙の分析のなかで、都市の名望家の選挙基盤を担うものとして位置づけられるかにとどまった。しかし、そこでは、衛生組合に与えられた法制上の位置づけについては全く分析の俎上には乗せられず、それゆえ、現象的には警察なり市会議員なりとの関わりは指摘されても、制度として市町村という地方機関と衛生組合がどのような関係におかれたのかは正確に位置づけられることはなかった。 こうした研究状況を鑑み、本研究では、制度分析を重視し、その上で実態とのすりあわせを試みた。その結果、(1)神戸市(兵庫県)の衛生組合の制度上の位置づけを見る限り、同組織は市参事会や市会の常設委員といった名誉職自治の機関からは明確に切り離された存在であり、民法上に規定される組合として、住民の任意によって設立すべきものとされたこと、(2)その背景には、日本の都市社会における、名望家支配の脆弱さこそがあったこと、等が明らかになった。 本研究は、今年度において活字化することはできなかったが、その内容は、慶応義塾経済学会の報告会などで、口頭報告として発表した。
|