本年度も研究課題に関する史料の調査・収集、国内外との研究者との交流、研究成果の発表を行った。史料収集に関しては、日本国内の各種機関に収蔵される徽州関係の族譜・文集・地方志などの史料調査を継続し、また4月には台湾の歴史語言研究所、8月には中国社会科学員歴史研究所において、徽州文書などの調査に従事した。同時に中国・台湾の文書史料・明清社会経済史研究者との学術交流を行い、歴史語言研究所では日本における文書研究の現況について報告した。また8月には、上海師範大学における「国家、地方、民衆的互動与社会変遷国際学術研討会」において清代徽州の山林経営・宗族形成について発表した。このほか国内では、京都大学人文科学研究所における「中国近世の秩序形成」研究班をはじめ、広島大学・大阪大学・東京学芸大学・早稲田大学などで開催された、宋代〜近代の地域社会・元〜明代の法制史料などに関する研究会に参加・報告を行っている。 研究成果としては、まず2月に博士論文を大幅に増補して、著書『明代郷村の紛争と秩序』を刊行した。ついで明代徽州における小規模同族の山林経営・社会結合・紛争処理を、一連の徽州文書により検討し、その成果を本年7月に論文として刊行する予定である。また関連するテーマとして、明代初期に寧波へ輸出された日本産品についての新出史料を分析し、本年3月に論文として発表する。以上の研究活動を通じて、従来の進めてきた徽州文書研究を、宋代〜近代における地域社会や社会結合の展開という文脈の上に位置付け、特に山林経営・同族結合・紛争処理といった諸点に焦点を当て、明清期の華中山間部における基層社会の実態を民衆レヴェルの史料によって明らかにする作業を進展させ、上記の研究成果を得るとともに、今後の文書資料・宗族・村落社会研究への展望を得ることができたと考えている。
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