今年度は、夏にテヘランを訪れ、3週間程ワクフ庁テヘラン州支部でワクフ文書の追加調査を行った。従来目録の不備で閲覧できなかった文書を閲覧し、またそのなかで特に重要な文書数点を複写することができた。また、最新の文書目録や都市統計など資料収集につとめ、現地の研究者とも積極的な意見の交換を持つことができた。ただ、時間的制約のため、歴史的建造物に関する本格的な調査はできず、今後の課題となった。 一方、文書の解析は順調に進み、文書から寄進者、寄進物、寄進対象などの情報を抽出するとともに、重要なワクフ数点に関して個別研究を行った。また、ロシア製の古地図を新たに入手し、宗教施設の変遷を文書と古地図そして統計資料との比較に着手した。そのなかで、ワクフ監督人(ナーゼル)やワクフ契約の公証人、裏書人の役割を果たしたウラマー層の重要性が明らかとなり、ウラマー伝や年代記から彼らに関する情報を抽出することを平行して行った。当初考えた都市史的なアプローチに加え、法社会史的なアプローチの可能性が開けたところが本年の最大の収穫であった。 研究成果としては、マヌーチェフル・ハーンのワクフに関する論文2点(和文、英文)および、アッバース親方のワクフに関する論文1点(英文)を完成させたほか、「二重のワクフ」に関する報告を日本中東学会年次大会および「イスラーム地域研究」国際会議(文部科学省科研費創成的研究)において行った。
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