2001年度については、夏季・冬季2度にわたりスペインへ渡航し、スペイン内戦体験者への聞き取り調査を実施した。今回話を聞くことができた人々は計5名、皆80歳を超えるが、概して内戦時に関する彼らの記憶は鮮明であり、戦線や銃後における当時の生き様の一部を記録することができた。反乱軍内での食糧・衣服等物資の供給状況、軍隊の中での宗教的生活、参戦時の状況、共和国軍側にとらわれた家族の遺体を捜す模様など、彼らの証言は「記憶せざるをえなかった」戦争におけるミクロな出来事を通じて、スペイン内戦を新たに記録する可能性を提示している。また今回、戦時下没収された財産の返還を願う人々の存在も明らかになった。これまでスペイン国家による賠償の問題は考慮していなかったので、新たな分析視点を提示されたことになった。今回調査した人々のうち、全てではないが、特にフランコ軍側で参戦した人に関しては、反乱軍のクーデタに端を発する戦争を、カトリック教を通じて正当化する「内戦=聖戦」観がみられた。この点からも、聖戦論的メンタリティと内戦中・戦後のスペインにおける政教関係との相関性については、今後考察を継続する必要があるといえよう。本調査は戦争を巡る集団の記憶が宗教と政治との影響により、いかに構築されていったかを論証する上で貴重な資料になると確信する。これらの証言が氷山の一角に過ぎないことは自明の理である。2002年度においても、また新たに内戦体験者の証言を記録していく必要がある。
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