カナダ・アメリカ国境が明確な形で「出現」したとされる20世紀初頭、移民たちによる国境を超える移動は決して一様に行なわれたわけではなかった。むしろ、それぞれが属するとされた人種やジェンダーによって、移民たちは異なる役割や意義を担っていた。移民プロセスにみるこうした差異は、移民グループが目指した移動先労働市揚の条件や望ましくないとされた移民たち(特にアジア系)の排斥を目的とした移民法の条項が大きく影響したものと考えることができるだろう。 合衆国移民局の作成した一次史料、Soundex Index to the Border Entriesを活用した高井の今年度の研究では、加米国境を越えて移動した移民のうち、二つの移民グループ、フランス系カナダ人と日本人移民について、特に女性移民に注目しながら1)人口動態、2)移民ネットワーク、3)職業経験の三点について分析をおこなった。いわゆる「写真花嫁」を中心とする少数の日本人移民女性と既婚・独身を含み、女性の数を大きく上回る同男性からなる日本人移民に対して、子どもを含む家族単位での移動が主流であるフランス系カナダ人では、1)〜3)の各点において大きな相異がみられた。特にジェンダーの観点から重要な点は、女性移民の移動前の職業経験だった。両者の相異は、フランス系カナダ人女性の多くが、移民先での世帯への賃金貢献者であることを期待されていたのに対して、日本人女性の場合、農業労働などに従事したであろうにもかかわらず、なによりも家事労働供給者としての役割をになっていたことを示唆するものといえるだろう。 以上の成果は、中間報告の形で日本アメリカ学会年次大会とアメリカ史研究者協会(OAH)の年次大会、北海道経営史セミナーなどで報告を行なった。
|