平成13年度は、両大戦間期アルザスの自治主義運動に関して、アイデンティティの側面からの研究を主に行った。まずAlsatian Acts of identity(L. M. Vassberg>を使って、当時のアルザスのアイデンティティと言語の関係を整理し、それをもとにしてアルザスの自治主義運動の基本的な分類を行った。またアルザスの地方紙(Dernieres Nouvelles d'Alsace)や季刊雑誌(Saison d'Alsace)を利用し、自治主義運動に関する学説整理および人物整理を行った。来年度はさらに個別の自治主義活動家の資料にあたり、日記、回顧録を利用して、運動と個人の思想の間の連関について考察したい。 以上のような研究と平行して、平成13年度は、6月に東京日仏会館の日仏連続講座「フランスの多様性-地域からの視点」において、「アルザス:フランスでもドイツでもなく」と題した報告を行い、コルシカ、バスク、オクシタニー等の研究者と意見を交換した。また10月には関西フランス史研究会の大会にて、「フランスを愛するアルザス人」と題した発表を行い、いわゆる「ナショナリスト」(フランスびいきのアルザス人)と評されるJ.ヴァルツの生涯とその作晶の読み直しを図った。ヴァルツと自治主義運動との関係については、来年度も引き続き研究する予定である。また11月には、立命館大学の国際関係研究会にて、「アルザスにみる地域とアイデンティティ」という報告を行い、アイデンティティの可変性についての実例を提示した。 なおJ-M. Mayeurの論文Une Memoire-frontiere : l'Alsace(『記憶の場』所収)の翻訳、論文「ナショナル・アイデンティティとアルザス」(『ナショナル・アイデンティティ研究』所収)、『グローバル時代を読み解く比較文化キーワード集』(「国民国家」「多文化主義」の項目担当)が近日中にそれぞれ発行される予定である。
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