1.近世後期江戸語の資料として、『比翼連理花の志満台』(松亭金水作、天保七(1836)年発行)、『春色江戸紫』(山々亭有人補作、元治元(1864)年発行)、『於七橘三花暦封じ文』(朧月亭有人作、慶応年間発行)の3種の人情本を人情本刊行会編『人情本集』を底本にして電子テキスト化し、さらに、それぞれの作品について東京大学国語研究室所蔵本を用いて校訂を行った。 2.1.の3作品および国文学研究資料館が公開している『日本古典文学大系本文データベース』のうち『黄表紙・酒落本集』、『東海道中膝栗毛』、『浮世風呂』、『春色梅兒誉美』の電子テキストを用いて終止形接続のソウダ、ヨウダ、ラシイの用例検索を行い、それぞれの形式が表す「推定」の性質を、(1)現実のいつの時点に起こった事態を推定しているか、(2)その助動詞が使用される構文環境どのようなものか、という観点から分析した。なお、この分析は現在も継続中である 3.終止形接続のソウダが「推定」と「伝聞」をともに表す形式から「伝聞」を表す専用の形式に変化したことに、推定を表す形式であるヨウダが関係しているのではないかという点について、2.のデータをもとに、検討を加えた。その結果、終止形接続のソウダとヨウダとはその「推定」の性質が「現実には既に存在しているはずの事態を推定する」という点で類似しており、用いられる構文環境にも共通性があるという結論を得、終止形接続のソウダの上記変化におけるヨウダの関与の可能性を確認することができた。この点に関しては、同じく推定を表すラシイとの比較、および、ソウダにおける推定用法と伝聞用法の割合とヨウダが推定用法に用いられる割合との相関関係を検証することが必要であるが、これらはすべて次年度の課題となる。
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