本研究は、読者及び読書に関する幅広い領域の知見を参照、総合しつつ、現在読者論、読書論がどのように展開され、どのような可能性がそこにあるのか、を分析し、その情報を広く提供するねらいをもって進めてきた。 昨年度は読書論の研究状況を把握、分析するとともに、地域の読書環境の変化を追って行くために、それらを明らかにする様々な地域資料の保存、整理、公開をも並行して進めてきた。今年度は、これらの成果を、著書、及び論文として刊行することができた。そこでは、日本文学研究内ばかりではなく、様々な領域での読書研究を広く見渡すとともに、具体的な地域資料を活用した読書の分析方法を提案、実践することができた。 より具体的には、読書研究自体に、それぞれの専門領域を越え、異なる領域同士が結びついてゆく可能性を見いだすことができた。さらには、現在の読書能力についての研究は、歴史的な観点からの読書調査、研究と連携する必要があること、中央の刊行資料のみではなく、地域の様々な資料を駆使しながら、読書能力を研究してゆく可能性があること、等について、実践的に明らかにしてゆくことができた。さらには、文学をはじめとする表現を、それがいかに広がり、どのような人々に、どのような形でうけとめられたか、すなわち表現の流通という観点から分析して行く方法を提示することが可能となった。そしてこれら知見については、刊行された図書、及びインターネットにおける情報発信とあわせて、積極的に公開して行くことに努めた。
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