平成14年度は前年に引き続き、旧畿内(山城・大和・河内・摂津・和泉)近辺地域における、一向一揆及びキリシタン伝承を調査・収集した。現在残存している伝承は、すでにその背景となっている時代から四世紀以上、伝承の発生時からも数百年を経ており、伝承というよりは伝承の痕跡、物語化を経た後の断片と言った方がふさわしいものが多いことが認められた。これらの収集・分析の成果については、今後徐々にまとめていくつもりである。 また、大航海時代のキリスト教宣教師、あるいはヨーロッパ商人等による、当時の「日本」に関する記述を収集、その表象について分析した。基本的に、ヨーロッパ人あるいはキリスト教徒/日本人あるいは「異教徒」、という、二項対立的発想が存在するとはいえ、即物的な描写から導き出されるリアルな認識や、「異教徒」の中に存する複数の社会的・文化的位相についての認識も見られ、最終的には前記の二項対立を崩すような部分も少なくないことがわかった。 これらはいずれも、十五・十六世紀の日本列島の歴史に関わる叙述の研究であるが、今年度はその他、同時代の物語草子、幸若舞曲等の、「小説の言葉の前史」(バフチン)としての側面に注目、資料収集と分析を始めている。両者の研究を相互に交差させることを通じて、十五・十六世紀の日本列島の文学史の問い直しを試みていきたいと思う。
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