2年目の本年度は、昨年度以来の研究内容を継承する一方で、これまでの研究成果を踏まえ、3篇の論文と1冊の著書を発表することが出来た。 「山部赤人の方法と時代状況」(国文学研究136)は、8世紀前半の歌人・山部赤人の作歌に特徴的に現れる方法を、彼が活躍した時代状況と関わらせて論じたもの。ここで論じた時代状況は、一言で言えば「風流の流行」ということであるが、これは律令制の完成に伴い、時代が保守化してゆく状況と、聖武天皇の即位が要求した持統朝の記憶の喚起といった事柄が複合するところに生じた現象と捉えられる。 「朝川渡る」(明日香風82)は、但馬皇女の和歌の解釈に関する論であるが、皇女歌にある「朝川」の「朝」という時間を、律令官制における「朝」という時間の意味に関わらせてみた。 「由義宮歌垣の意義と歌謡」(萬葉182)は、称徳天皇が催した由義宮行幸において挙行された歌垣行事で披露された歌謡の歌詞と催事じたいの意義とを関わらせて論じたもの。聖代を称揚するときに好んで祥瑞が利用されたことと、「淵も瀬も」の歌詞は連動すると考える。 著書『古代和歌』では、本研究の成果を総合的に取り入れつつ、政治史・状況史的な観点を積極的に導入しながら、上代和歌史の記述を試みたものである。
|