正統とされてきたアメリカ文学史や周縁作家が見直される気運の中、近年、アメリカ文学研究において、1850年代に売り上げを伸ばしていた女性作家の作品、すなわち、家庭/感傷小説とよばれる領域への関心が高まっている。当時、ベストセラーとなった作品と数人の女性作家の再評価がすすめられる中、本研究は、著書という形態をとった女性作家作品研究に焦点をあてるのではなく、同時期に存在していた白人中流階級の女性向けに創刊された大衆雑誌におけるディスコースを資料として、女性作家の執筆の軌跡、女性文化、ジェンダーイデオロギーの解析を試みようとするものである。著書を出版した女性作家の多くは、金銭的に有利な女性大衆雑誌に作品を掲載していた。それらの大衆雑誌は、編集者のイデオロギーを繁栄したものである以上、彼女たちの作品も自ずからそれらに絡みとられたものであり、芸術作品として単体で存在するわけではなかった。今年度の研究では、19世紀に読者層の多かったGodey's MagazinとLadies' Home Journalを1次資料に選び、ディスコース分析を行なった。 白人中流階級の女性向けに創刊された女性大衆雑誌は、「家庭の天使」であることが強要されていた当時の女性たちに、自分の考えを述ぺ、そのことによって収入を得させるという社会への解放の媒体であった。しかし、一方で、育児、料理、裁縫を中心としたディスコースは、当時の中流階級の女性達に「家庭の天使」像を流布し、そして理想化することで、その像を強固な現実として提示する媒体としても機能していた。ディスコースばかりでなく、19世紀末の資本主義社会の到来に向けて誌面の多くを占めるようになる広告も、貴婦人にふさわしい服装や、家事への関心を高める製品を毎号繰り返し掲載することで、視覚的に伝統的で家庭的な理想像を助成に強要することに加担していた。大衆雑誌は、女性作家や読者にとって女性文化の構築に貢献するだけでなく、ジェンダーイデオロギーに関する解放と束縛という二面性を提示することによって、彼女たちの文化を翻弄した一面もある。
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