本年度は、第一に、前年度および今年度に収集を行った、ロンドン王立協会にまつわる歴史的史料などをもとに、文学と科学の新たな関係性の登場にともなう、エコロジー思想とユートピア文学との新たな関係性を明らかにする作業を行なった。第二に、このような文学と科学の状況を踏まえつつ、社会主義思想とユートピア文学の関係に注目しつつ、今後の可能性としてのエコロジー思想とユートピア思想との接合の可能性、およびその限界についての考察を行なった。 具体的には、初期ロンドン王立協会の周囲に生じたさまざまな「自然」をめぐる言説の検討を行なうことによって、韻文形式から散文形式へという形式の変化と、その際に、作りあげられた「散文形式=真実」という図式を確認し、その結果生じた、さまざまな疑似的な真実の言説という新たな文学ジャンルをユートピア文学との関わりで確認した。 また、同時に、19世紀ユートピア作品、および20世紀におけるその受容に注目することによって、ユートピアという文学ジャンルが社会主義思想(のある一派)と同一視されていき、その意味が狭められていく過程を確認した。そして、今後、エコロジー思想などと接合することによって、ユートピア文学が有していた多様な可能性を回復する試みが必要であることを確認しつつ、同時にそれに伴う危険性についての考察も行なった。
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