本年度は、十七世紀に英国で初めて誕生したと考えられている職業的女性劇作家(アフラ・ベーン)にまつわる問題を、作品と歴史のレベルで検証するために、演劇テクストはじめ、上演や出版に関する記録、社会的、政治的、商業的文献、当時のセクシュアリティに関わる言説といったテクストの収集を行なった。これらの文献に基づき、女性作家/職業作家という問題を考察する上で有効な歴史資料を作成しつつ、ベーンおよび同時代の男性作家らによる作品を分析をすることで、研究を行なった。 具体的には、ジョン・ジェネストやジョン・イブリンから提供される上演記録のみならず、ジェラード・ラングベインといった当時の演劇通が残した記録などから、上演の興行上の実態や、芝居や作家に対する評価、作品に対する政治的検閲や弾圧の存在などを読みおこすことで、十七世紀、とりわけ、ベーンが活躍した、そして王政復古と共に華々しく様変わりした劇場像の再構築を試みた。また、作品のレベルでは、ベーンの翻案劇と、その原作にあたる、劇場封鎖以前または内乱期の男性作家らによる作品とを比較検証した。その際に、オリジナルと言ってもよいほどに目新しい作品に仕立て直したにも関わらず、盗作の批判にさらされたベーンが、それまでの英国演劇の伝統の流れの中に、どのような戦略をもって芝居の興行的成功を狙い、また作家としての地位を確立しようとしたのか、という点に着目して、ベーンによる現実と作品のレベルでのジェンダー・ポリティクスを明らかにした。
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