本研究の目的は、言語使用者に着目した語用論的な観点から、初期近代英語におけるテンス・アスペクトを分析し、これら時間を表す文法範疇の本質を明らかにすることにある。本年度は、この目的を達成するため、言語使用者の態度がこれらの文法範疇の選択に決定的に重要であるという本研究の立場から、やはり言語使用者の態度を表すモダリティとの関連性を探った。 まず、広く言語学及び文献学の文献から、テンス、アスペクト、モダリティ、また、コーパスとなる初期近代英語及びシェイクスピアに関する文献を調査した。次に、対話が豊富で、当時の言語、特に話し言葉が比較的正確に反映されていると考えられるシェイクスピア劇にコーパスを限定してコンコーダンス作成の作業に入った。 分析のために選択した言語形式は、法助動詞'will'と'shall'である。これらは、初期近代英語においては、モダリティと未来時(未来テンス)を表す形式へと発達する過渡期にある。歴史語用論の観点から、両形式の持つ機能を観察した。先行研究がしばしば行っている言語行為の分析だけでなく、対話者の関係を考慮に入れた社会言語学的な立場からの分析に関する示唆が得られた。会話や談話のなかで両形式が果たす機能で顕著なものは、対話者への反応、また、何らかの条件が充たされた時に起こる反応である。伝統的には意志・予言という意味の区分で分析できるとされてきたが、意味的にも機能的にもモダリティとテンスの重なる領域に関わる形式であることが裏付けられた。
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