1980年にバンド「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン」を結成し、現在、音楽・文芸・舞台・映画等様々な分野で活躍中のドイツのアーティスト、ブリクサ・バーゲルトの二十年にわたる活動の全容をあきらかにすること。日本ではかろうじて、ごく一部の「音楽」活動しか知られていない彼の多岐にわたる営為、ことに言語芸術的営為に焦点をあてて紹介することで、彼とそのバンドに対する従来の一般的評価に新しい視点をくわえ、彼の作品に新しい位置づけを与えること、いわば、「音楽」という狭い領域のなかから彼とその営為とを、人間の言語的営為一般のなかへ放り出し、広々した混迷の歴史のなかに位置づけようとしては失敗することによって、彼の営為に接近すること。そのようにしてしか接近しえないものとして彼の営為をとらえることによって、彼の作品、および、それらの作品が生まれるに至った現代文化のある深層にスポットを当てることが可能になるということを明らかにすること。 15年にわたって蓄積した膨大な資料にもとづいて、上記のような意図に沿ってこころみた集大成は、したがって、研究成果の集大成というよりは、集大成することの失敗の集大成という様相を呈する。レコード、CDどころかインターネットで音楽を聞く、聞くことを反復するとはどういうことなのか?歌詞の翻訳とは何か、あるいは、音楽の記憶とは何か、そこで生じるメランコリーはなにゆえのものか。そうしたことを言語をもって考察し、その考察が文字として印刷される、あるいはされないとはどういうことなのか、音楽と言語とがこもごもにめざすユートピアは、書字文化からデータ文化への移行期にあって、その非在の様相をどのように変えるのか、「研究成果」としての「書物」は、その変化のなかでどのような立ち位置を見出すことができるのか?そうした複合的な問いに対するひとつの解答のこころみ、あるいはその確信的失敗の例証として、この研究報告書としての「書物」は成立するだろう。
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