ヨーロッパ文化に現れた脱黙示録志向の考察を中心に進めながら、黙示録文化の弁証法の実相の解明を目指す本研究の今年度の成果は、概ね次の二点にまとめられる。 第一点は、黙示録文化特有の屈折した現象、すなわち黙示録と脱黙示録の相反する二つの志向が黙示録に精通する同一の人物の内に宿るという特異な現象を、トポス論を踏まえながら明らかにしたことである。その際、黙示録と脱黙示録の二っの志向の混淆を初めて文学化した表現主義抒情詩集『人類の薄明』を主たる考察対象に据え、併せて別の具体例としてウンベルト・エーコの『バラの名前』も扱った。本成果は平成12年10月に韓国で行われた国際学会の論集へのドイツ語による寄稿論文である。 第二点としては、インゲボルク・バッハマンの『ウンディーネ行く』におけるユートピア志向と黙示録志向との混淆の解明が挙げられる。その際、日本における水の精の物語であり同時に黙示録志向を有する泉鏡花の『夜叉ヶ池』と比較対照とすることで、ヨーロッパ的黙示録における一回性と目本的黙示録における循環性を問題にした。本成果はドイツ・ベルリン大学教授のHannelore Scholz氏によって編集され、ベルリンで刊行された単行本に掲載されている。
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