今年度の研究計画にあったのは、1.人文・社会科学における出来事の記述に関する理論と技法を批判的に再検討して、フリッシュの未公刊資料分析のための理論モデルを構築すること、2.新たに公開可能になったフリッシュの遺稿等を入手すること、3.未公刊資料をデータベース化すること、4.中間報告的論文を学術誌に投稿すること、であった。 1.出来事の記述に関する研究文献の収集はほぼ終了し、理論モデルの構築のための研究ノートの蓄積も進んでいる。そこにフリッシュの仕事を位置づける作業にもめどがついた。その過程で、出来事の記述に関する理論と技法を学際的な視点から整理する研究が少ないことが明らかになった。したがって来年度は、フリッシュの技法論に関する論文に加えて、当該テーマの理論と技法を広く学際的にレビューした論文を執筆することに決定し、すでに基礎作業に入っている。 2.未公刊の遺稿の収集は、スイス側での公開のペースが遅れているのでやや難航しているが、1930年代にフリッシュが匿名で発表した新聞記事等がほぼ完全に入手できたので、1960年代の「順列の美学」の形成に至るプロセスを実証的に解明するには十分である。70年代、80年代の未公刊資料の一部は来年度公開されることになっている。 3.1930年代の匿名新聞記事は全て、いわゆる「ヒゲ文字」で書かれているため、OCRによる読みとりの作業は難航したが、現時点までに全てテキストファイル化することに成功した。40年代から70年代にかけての全集未収録の資料に関しては、タイトルと発行年での検索が可能な形でファイル化した。 4.70年代のフリッシュの代表的テクストである『モントーク岬』を、現在の出来事を記述するための思考実験としてとらえ、その成立過程を、上記の成果および既刊の資料を関連づけながら明らかにした。詳細については裏面に記す。
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