研究概要 |
本研究の初年度である今年は,当初の計画通り,資料収集のためイギリスとドイツに出張した.イギリスでは大英図書館で1868年から1967年までの100年間のパンジャーブにおける出版物総目録を見た.本資料は,1巻が約500ページ以上で構成される,総数28巻の大部(うち最初の3年分は所在不明)で,パンジャーブでの出版物をテーマ,言語,著者,出版社,刊行物のサイズ等を網羅的且つ詳細に記述したものである.本目録の存在は知られていたが,本格的に紹介されたことがなかった.その意味で本目録の発見は今年度の一大成果であった.今次出張では,膨大なぺージ数のため複写が困難だったため,1870年と80年,90年の3年にわたる出版状況を筆写して持ち帰った.この30年間を見ても,ラーホールでの出版量の激増状況は顕著であり,本研究の主題であるラーホールでのウルドゥー文学の著しい発展状況が証明できる有力な資料の一つとなった.しかし研究成果を提示するにはデリーの出版状況なども精査する必要があり,次(最終)年度はさらなる調査を行ない,結果を出したい. また同図書館に於いては,ラーホールでの出版興隆の背景となるデリーの荒廃状況に関する資料も入手できた.ドイツではハイデルベルグ大学の南アジア研究センター付属図書館を訪間し,19世紀のウルドゥー資料を確認,その一部を複写できた. 以上の出版状況の調査とともに,ラーホールでの「知」の動態的研究の一環として,ラーホールで活躍した建国詩人イクバールと,イスラーム復興の思想家マウドゥーディーの交流を軸にしたイスラーム復興運動の研究をテーマに論文を発表し,京都大学大学院の雑誌でも原典紹介を行なった.また今年度9月に発生したアメリカでのテロ事件は,南アジア地域やイスラーム復興運動への関心を高めたため,これに関連して論文等を発表した.
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