今年度最初の作業としてOCR入力でテクストを電算化する計画だったが、主要な言語と異なり読み取りソフトの辞書機能が使えないことに加えて、アイヌ語に正書法がなく極最近になって漸く標準的表記法が確立(定着)したと言う経緯から同一の語であっても様々な綴りが用いられ、単語の区切り方、分かち書きのし方も不統一であるという理由でこの計画は断念せざるを得なかった。折りしも、打ちこむべきテクストの一部が他の研究者の好意で利用できることになったため、他を打ち込むことにより五万語を上回るコーパスを作成することが出来た。 一方、既に指摘した様に原典には同一語の複数の綴り、単語の区切り方や分かち書きの不統一があり、電算化テクストの大幅な加工が必要である事が判明したため、テクスト全てに目を通して概略的な意味解釈を行ないながら形態音韻論的な再分析を施し、(1)同一語の異綴りには別の綴りも併記する、(2)現在流通している標準的表記法に基づいて人称接辞標示を付す、(3)音韻変化を標示する、(4)原典に含まれる明らかな綴り間違いを修正する、(5)音声聞き取りと語義選定の原典とは異なるの可能性を服する、などのテクストの加工並びに略式の原典批評を行なった。これにより「アイヌ語旭川方言コーパス」が作成出来た。 また、出現語彙リストを作成し、時間の許す限り語義の簡単な記述を進めた。既刊の別方言の辞書の殆どが旭川方言を読解する上では不十分であり、服部四郎編『アイヌ語方言辞典』や久保寺逸彦編の『アイヌ語・日本語辞典』など複数の高価な辞書を参照しなければテクストを読み進める事が出来ないことが分かったため、作成した語彙集には出きる限りそれらの辞書での語義を収容し、研究を進める上で参照に便利なようにした。これらの作業で集積された「アイヌ語旭川方言テクスト」、「出現語彙リスト」を次年度以降の研究に資するよう簡単な冊子として纏めた。
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