研究概要 |
本研究は、日本語母国語話者による会話のデータを蓄積し、会話分析の視点から指示表現の機能を分析することを目的としている。今年度は、まず、互いに面識のあるデータ提供協力者2、3人による30〜50分間の自然な(無計画な)会話を合計7組ビデオ録画・録音した。そして、Gefferson, Sacks, Schegloffらによって開発された会話分析の手法に基づき、順次書記化作業を行ってきた。 このデータの一部を用いて、会話における指示表現の役割について考察した。具体的には、ある話者が自分の体験や見聞を語った後に、別の会話参与者が、言及された対象や出来事について評価や感想を述べて応答する、アセスメント行為を行うときに用いられる指示表現に注目した。規範的には、談話の中で一度言及された対象を再度指示する場合には、指示表現が省略されるという原則がある。しかし、実際の会話データを観察すると、必ずしも常にその原則が成り立つわけではないことがわかる。そこで、会話分析の視点から、指示表現の生起の決定要因について考察した結果、指示表現が発話の初期段階に明示されることによって、聞き手に、当該発話がその後どのような文法形式をとり、どのような意味内容を持ち得るのか予測させるための手がかりを与えるリソースとしての役割を担っていることが明らかになった。この分析結果は、日本語用論学会第4回大会(平成13年12月1日桃山学院大学)での口頭発表「物語の聞き手のアセスメントに関する一考察」において報告を行った。
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