研究2年目に当たる今年度は、昨年に続き(1)親族動詞一般の研究をすすめると同時に、(2)中部コイサンのひとつであるグイ語の親族動詞の記述をすすめた。 (1)親族動詞の存在そのものについては、諸言語の研究者と情報交換を行ったが新規に見つけることは困難であった。また親族動詞の存在と有機的に関連性があると思われる文法項目の相互性reciprocity、およびdiadic表現については、それらを豊かに有するオーストラリア原住民語の資料提供をうけ、また一般言語学的な観点からの知見をひろめるため未公刊の資料の提供をうけ情報交換を行った上で、グイ語におけるこれらの現象の記述に取り組んだ。(2)グイ語の親族動詞の記述に関しては、中部コイサン全体からの視点をくわえグイ語における名詞性/動詞性の観点から議論をすすめた。相互性reciprocalをあらわす動詞接辞が親族名称に付加されることは中部コイサン語において広く見られる現象であるが、いずれの研究者もこれは「動詞接辞が名詞に接辞する例外的な現象」とみなしている。しかしグイ語においては、この現象のみならず、アスペクト辞の付加やテンス/アスペクト/ムードマーカーのコントロールなど非常に動詞性の強い他の現象も親族名称がひきおこす。この動詞性/名詞性の問題についてオーストラリア・メルボルン大学言語学科のセミナーにおいて口頭発表を行い、そこでのフィードバックを加えた形で現在研究論文を作成中である。
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