インド・オリッサ州で話される印欧語インド語派の言語、オリヤ語について、文法的諸側面の記述を中心に研究を行った。この研究は、次の2点の解明を主要な目的とした。第一は、個別言語・方言の文法を、意味表出の仕方にかんして性格付け(類型化)すること、第二は、文法の性格を、言語を取り巻く文化的文脈・歴史的文脈に位置づけることである。 資料収集のため、12月〜1月、現地オリッサ州カタックで調査を行った。この調査では、オリヤ語母国語話者2人と毎日面接を持ち、これに加えて補助的に他の話者数人に随時意見を求めた。複数の話者の協力を得ることで、同一言語社会内における話者間の変異をある程度明らかにできた。 この調査で得た資料およびそれに基づく考察は、論文2篇で発表した。うち1篇では、概略的に「させる」と和訳される動詞形について、これの本質的規定は、文中の項の数などの構文上の特徴によるのでなく、間接的な使役という意味的な特徴によるべきであることを示した。他1篇では、オリヤ語には、動作が動作主自身に向けて行われること(再帰)を表す補助動詞が3つあること、また、これらがお互いに異なった意味的基盤を持つことを明らかにした。 日本語-とくに勤務地(岡山市)の方言-についても、同様の目的意識から研究を行った。資料は、年度中継続的に多数の話者の協力を得て収集した。成果は、論文3篇(うち1篇は予定)で公表した。アスペクトを表す補助動詞について、用法を記録し、意味的規定について論じた。また、話者間に見られる変異を詳らかにし、共時的変異を生じさせた歴史的変化の過程を推定した。
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