今年度も情報処理の専門家(山口県立大学、永崎研宣氏)の協力を得て、昨年度試験的に開発したデータベースのシステムを改良し、検索機能を加えた。 アレクサンドロスに関するアラビア語・ペルシア語一次資料の収集(海外での調査も含む)および原典テキストの入力作業を続けた。英・仏・独訳が存在しないテキストについては、英訳を作成した。 収集、電算化したデータの一部、特にイスラームという信仰と不可分な関係にあるアレクサンドロス大王に関する言説を分析し、論文「アラブ・ペルシア文学におけるアレクサンドロス大王の神聖化」にまとめた。 アレクサンドロスは、アラブ・ペルシアの宗教書においてのみならず、歴史書や叙事詩においても敬虔な信徒、神に特別な権威を与えられた真の教えの布教者、聖戦の闘士、そして預言者として描かれている。本論文ではまず、アレクサンドロスが中世イスラーム世界においてこのように神聖視されるにいたった背景を明らかにするため、『コーラン』第18章「洞窟」に登場する二本角(ズー・ル=カルナイン)とアレクサンドロス伝説との関連を指摘し、また、イスラームに先行する一神教であるユダヤ・キリスト教がその宗教説話の中にアレクサンドロスを取り入れた経緯を辿った。 さらに、コーラン注釈書、預言者伝集、歴史書、韻文アレクサンドロス物語など、様々な分野のアラビア語・ペルシア語作品から具体的なテキストを採り上げ、それらを分析し、より象徴的・寓意的な存在である二本角と歴史的コンテキストの中のアレクサンドロスの微妙で密接な相関関係について考察した。 今後も、本プロジェクトで開発したデータベースに情報を恒常的に蓄積してゆき、中世イスラーム世界におけるアレクサンドロスに関する伝承の様々な側面を分析してゆく予定である。
|