(1)本研究は、訴訟当事者間で成立した和与が幕府裁判所によって認可されることの中世法上の意義について、ある一定の見通しを得ることを課題とするものである。そこで、本研究では、「裁許を得ていない和与は私和与である」という「沙汰未練書」にいう記述を裏から間接的に理解することによって導き出されたところの、「裁判手続上、法的に有効な和与は認可を得ているもの」という理解について、再検討を試みることによって、「法的に有効」とはいかなることかという問いに対して一定の回答が与えようとするものである。 (2)(1)本年度は、新潟大学所蔵の古文書史料集である『鎌倉遺文』、『増訂 鎌倉幕府裁許状集』(関東裁許状篇、六波羅・鎮西裁許状篇)、『大日本史料』、『大日本古文書』(家わけ篇)や、古記録集である『大日本古記録』などの既刊行史料集を素材として、この中から、鎌倉幕府の裁判関係史料を抽出する作業を進めた。(2)この作業のなかでは、平成11年度〜平成12年度において、研究代表者の行った奨励研究(A)「日本中世法における「所務沙汰」をめぐる紛争処理および訴訟手続に関する実証的研究」から得られた知見に関する補足的理解を得るために、(2)-(1)和与の認可が裁判所に対して申請される際に、その裁判手続を示す史料を追加確認していくとともに、(2)-(2)幕府裁判所によって認可された「和与」について、その後に蒸し返し的に紛争が発生している場合の史料、すなわち、和与認可裁許状以外の裁許状において和与の取り扱われている史料や、「和与」をめぐる訴訟当事者による応酬を見て取ることの出来る訴陳状などの裁判関係史料について注目した。この作業から得られた若干の知見は、研究論文一本および書評一本としてまとめることが出来た。 (3)他方で、本研究の重要な課題としているところの、「私和与」に関する史料をも網羅的に収集・整理する作業を早期に進めるべきことを痛感している。裁判所による認可を受けたものと思われる場合の和与状のみが残存しているケースであるのか、あるいは、裁判所に訴訟が係属し和与が成立した結果、和与状は作成されたにもかかわらず、和与認可裁許状が下付されていない(和与の認可申請が行われていない私和与に該当する)ケースであるのかを明らかにしていかなければならない。あわせて、古文書学における和与関係文書に関する理解を再点検しながら、和与をめぐる裁判手続の全貌を明らかにしていく必要がある。
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