行政活動のガバナンス制度のうち、昨年は権力分立、手続、情報公開、政策評価を取り上げたので、今年度は、訴訟を取り上げた。日米比較の成果は次のとおりである(論文発表中)。 1.日本の行政訴訟制度では、「行政行為の公定力」を前提に「取消訴訟」という特別の「訴訟類型」を定めるという発想が強固に貫かれている。取消訴訟の排他的管轄論、「第三者の原告適格」論、「処分性」論、「訴えの利益の事後消滅」論の論じ方のすべてに、この点が強く反映されている。 2.これとは違う制度として、アメリカの行政訴訟制度がある(正確に言えば、「司法審査訴訟」制度)。アメリカ法にも、日本の行政行為に近い観念はあるものの、それが裁判の場で特別の取扱い(公定力)をもたらしてはいない。「行政行為」の概念と、それが裁判上特別の扱い(特別の「訴訟類型」を準備すべきであるという考え方)とは結びつかないことの実証例が、アメリカの制度である。 3.アメリカの司法審査制度は、(1)「行政行為」を特別扱いする発想がないこと、(2)通常の民事訴訟と同様、本案が、「right of actionまたはright of review(なんらかの裁判的救済を求める資格がある」ことを意味する)の成否を審理するという観点からその構造が理解されていること、(3)紛争の成熟性、原告適格、訴えの利益の事後消滅(ムートネス)は、このright of actionのスクリーニングという位置づけであること、(4)そのうえで別途、司法権(憲法論)が外延を画すためにかぶさっている、という構造を有している。 4.その結果、アメリカの司法審査訴訟制度は、あらゆる行政活動を対象として、他の民事訴訟と同様に、「紛争の成熟性」「原告適格」「訴えの利益の事後消滅」などの訴訟要件を、本案と密接に関連させながら議論するという仕組みを取っている。「訴訟類型」の発想を取っていないため、各種の訴訟要件の制限がきわめて少ない。
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