本年度は、わが国の公務員制度における法的課題の洗い出しとわが国における問題点を新たな視点から見つめ直すための視点を設定するため、日仏の公務員法、行政法の文献講読に力を注いだ。その際、行政法全体における公務員制度の位置づけ、とくに、近時の様々な行政改革法制(行政手続、地方分権、中央省庁再編、特殊法人改革、情報公開、政策評価、パブリックコメントなど。)に目配りした上で、これらの行政改革の進行の中で、新しい時代にふさわしい公務員制度の在り方、とりわけ、公務員制度の目的や意義、公務員と民間労働者の法的処遇の差異は具体的にいかなるものであるべきか、新しい時代にふさわしい公務員の採用、昇進、退職システムはどの様にあるべきか、を模索することを心がけた。具体的な研究成果として、公表されたものはまだないが、近々公表予定のものでは、フランスにおける公務員の定義をめぐる判例学説の変遷を検討した。本研究のテーマである採用・昇進・退職・勤務評定法制の内容を考えるに当たり、その前提として、公務員の定義の検討が必要不可欠と思料したからである。わが国では、基本的に、国・地方公共団体で勤務する者を一律に公務員とし、特別な勤務法制を適用しているが(ただし、特定独立行政法人の創設によりこの前提は揺らいでいる)、フランスでは、雇用主体が国・地方公共団体以外(具体的には、公施設法人)で勤務する者でも行政的公役務に従事する場合には、公務員とされる。つまり、フランスでは、雇用主体基準に加えて、遂行業務内容を基準としており、このような考え方は、わが国の公務員法制を考えるに当たり、参考になろう。なお、現在進行中の司法制度改革との関係で、公務員関係における法的紛争を適切に解決するためには、どのような訴訟制度であるべきか、といった論点も忘れるべきではなく、総論的な議論に終わっているが、この点については簡単な成果を公表している。
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