本年度は、わが国の公務員制度における法的課題と問題点を見つめ直すための新たな視点を設定するため、日仏の公務員法及び行政法、労働法、行政学の文献講読に力を注ぎ、以下の成果を得た。 1.公務員制度の在り方を論ずるためには、その前提として、いかなる人々を公務員とすべきか、公務員制度の射程が論じられなければならない。この点についてのフランスは、フランス行政法一般を支配する公役務理論と関連づけており、その結果、この点に関するわが国の理論と大きく異なる考え方がとられていることが研究の成果として得られた。 2.フランス公務員法の特色の一つは、キャリア・システムを採用する点にある。これは、終審(長期)雇用・継続的内部昇進を前提とする点で、アメリカの制度と対照的である。わが国の実定公務員法は、アメリカ法をモデルとしているにもかかわらず、その実態は、フランス風のキャリア・システムであり、そこに、制度と実態の乖離が指摘できる。そして、フランス公務員法の検討によって、わが国に不足している点が明らかにすることができた。具体的には、強力な身分保障、昇進制度の整備、勤務評定制度の充実などである。 3.公務員制度を考えるに当たっては、公務員法のみに視野を限定するのではなく、他の行政法システムと関連づけて考察していかなければならない。例えば、勤務評定制度においては、勤務評定基準の公開(情報公開)、評定結果の本人閲覧(個人情報保護)、評定結果に対する争訟方法(苦情処理、行政訴訟)等のあり方が問われる。フランスでは、これらの点について、様々な法的工夫が凝らされており、わが国の制度設計にあたり参考になる。
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