今年度は、まず、フランスの憲法規範および憲法院判例が、一般の裁判機関、とりわけ破毀院を中心とする司法裁判所に与えた影響について検討を行った。その研究成果は、「破毀院における憲法院判例の受容をめぐって--ニコラ・モルフェシによる批判的検討」(『明治学院論叢・法学研究』72号)として公表された。ここでは、ニコラ・モルフェシによる詳細な判例分析に依拠しつつ、(1)明示的な憲法判例の受容(形式的受容)は不十分であるものの、(2)司法裁判所が、実質的に、あるいは暗黙のうちに、憲法院が示した解決方法に応じたり、憲法判例が司法裁判所の指針になる場合、すなわちモルフェシのいう「実質的受容」が少なからず確認されること、そして、(3)破毀院において憲法規範が積極的に援用される傾向を明らかにした。 また、裁判機関に対する影響のみならず、フランス本土あるいは海外領の立法・行政に対する憲法規範・憲法判例の影響についても検討を試み、その成果を「フランスにおける憲法裁判と公権力」(『明治学院大学法律科学研究所年報』17号)、「現代フランスにおける憲法裁判と立憲政治」(憲法理論研究会編「憲法理論叢書(9)立憲主義とデモクラシー』敬文堂)において公表した。さらに、昨年夏のフランス領ニューカレドニアにおける調査・研究をふまえ、フランス海外領の立法・行政機関に対する憲法判例および憲法規範の影響について検討を進めており、近く、その成果の一部として、学術論文「ニューカレドニアにおける自治権拡大とフランス憲法院」を『明治学院論叢・法学研究』74号に公表する予定である。なお、ニューカレドニアにおける影響については、とりわけ1998年のヌメア協定、1999年の組織法律によって、一定程度の立法権が地方議会に認められたことに関連して、憲法院や憲法規範の影響が、地方独自の立法や地方行政にどのような形で及ぼされているのか、を明らかにすることが必要である。
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