1997年のアムステルダム条約により、ビザや難民などの問題とともに国際私法は、EC条約第4編へ移動し、ECが権限を有するようになった(EC条約65条)。本年度の研究の第1部は、65条によるECの新たな権限の範囲と問題点の検討であり、以下の3点が明らかになった。 第1に、自由・安全・司法の空間の実現のために、裁判の相互承認原則が重視され、国際私法の調和は背後に追いやられている。 第2に、域内市場の実現のためのいわゆる新アプローチと比較した結果、やはり裁判の相互承認原則が重視されている。 第3に、しかし裁判の相互承認原則をさらに押し進めるには、障害が存在する。最も重要なものは、基本権の尊重であり、これは欧州人権保護条約との関係の強化や欧州基本権検証の制定などから、ますます重視されている。これを乗り越えるには、各構成国の民法・手続法・抵触法のさらなる調和を進める必要がある。 以上の総論的研究を受けて、各論的研究として、ブリュッセルI条約の規則化について、その内容を検討した。これについては、以下の点が明らかになった。 第1に、国際裁判管轄に関する規定については、必ずしも大きな変革は存在しない。主に、従来の判例で明らかになった問題点を修正したにすぎない。 第2に、これに対して、承認執行については、要件の他、執行許可手続の構造が大きく変わった。これは、執行の迅速化のためであるが、上記の自由・安全・司法の空間の実現という、EUの目標達成のための活動の中に位置づけられる。
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