今年度は、引き続き国際実行の調査を深めるとともに、研究のまとめに取り組んだ。 本研究では、国際実行において「無効」という言葉がどのように用いられているかにまず注目し、国際法における無効概念を明らかにすることを試みた。その結果、「絶対的無効・相対的無効」や「不存在・無効」という、国内法でしばしば認められる区分が国際法では意味を持たないことが明らかとなった。また、実行から、無効は違法性の結果としての「制裁」として捉えられていることが明らかとなり、これまで「違法」と言えば直ちに「責任」をその結果として考えてきた(とりわけ英語圏および日本の)国際法学に再考が迫られることにもなる。 また、国際法においては中央集権機関が存在しないことから、「客観的概念」である無効は国際法上無意味である、という主張も有力である。これに対しては、無効が「客観的概念」であるという前提そのものが理論的に不十分であるほか、国際実行において無効概念が頻繁に使われている現実にも一致しないと言える。 無効を上記のように「制裁」として捉えるならば、責任との関係を明らかにしなければならない。理論的には、国連国際法委員会も国家責任条文案審議過程である程度認識していたように、責任が事実としての行為に起因するのに対し、無効は法律行為に関わる、という点がもっとも特徴的である。また、実践的には、法律行為の効果の承認が問題となる点で無効は責任と異なる。 無効概念の解明と無効制度の精緻化は、したがって、国際法秩序における合法性確保に大きな貢献をなすものと考えられる。 今後、1年以内に上記成果を刊行する予定である。
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