欧州連合及び欧州審議会の動向を調査することを主眼として、事実を整理・分析し、問題点を検討する。欧州連合及び欧州審議会は、人権保護のために協力関係を維持しながら、その措置を講じており、それが他の世界に対しても重大な影響を与えつつある。したがって、これら機関における人権関連文書を網羅しっつも、近年とりわけ注目をもたれている、欧州連合人権憲章をはじめとするアムステルダム条約め改定作業における欧州人権条約の役割、及び欧州連合条約の改訂作業に相前後して欧州連合がイニシアチブを取って人権保障のシステムを創設したボスニア・ヘルチェゴビナに対する両機関の処理に注目する。 その処理において利用された欧州人権条約は、採択50周年を迎え、さらに今年第12議定書が採択されたことによって、差別禁止を包括的に取り上げる条約となった。他方、デイトン協定により、欧州審議会加盟国よりも先行的に包括的な差別禁止条項がボスニア、ヘルチェゴビナに適用されており、人権保障の二重規範性が問題とされるようになってきている。この点について、欧州審議会職員から貴重な助言を得、また人権裁判所図書館で資料収集を行った。 これら作業によって、本年度は、まず国際法における個人、人権のあり方について概括した。そこでは現代の人権保障が欧州人権概念を中心とするグローバル化が図られていることが明らかとなり、その一方でその正統性の間題が生起しつつあることが理解できた(成果は『グローバル化と現代国家』(お茶の水書房)に発表)。また、東欧への欧州人権概念の拡大によって、欧州人権条約の条約解釈がとのようにかかわるのかという側面に注目し、欧州人権裁判所・人権委員会の前の個人の申立権制度について、東欧の市場経済と密接な間題となる株主の問題を取り上げ、その考察を試みた(世界法年報21号に発表)。
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