今年度の成果として、次のものがある。 第1に、欧米では、被告に取引義務を命ずる例もいくつか見られ、従来の日本における常識的なイメージである「一回的・消極的」な枠を超えた命令が設計されている。また、最近におけるマイクロソフト事件の同意判決案は、その枠組みもさることながら、反対意見も各層から寄せられており、命令の設計・内容審査の手法等の多様な面から、興味深い。 第2に、日本においても独占禁止法24条を念頭に置いた仮処分申立から裁判上の和解に至った例も見られ、柔軟な救済が得られる実態がある。判決に至った例だけでなく、このような事例も可能な限り明らかにすることが重要である。 今年度の研究のなかから浮かび上がった次年度の課題として、たとえば次のものがある 第1に、独占禁止法24条は、不公正な取引方法だけを対象としており、私的独占・不当な取引制限を対象としていない。これはなぜであるのか。両者に質的な差異はあるのか。これを明らかにすれば、不公正な取引方法という違反類型の内実も明らかとなり、差止命令の設計論にも資することとなろう。 第2に、行政上の排除措置命令を設計し執行する公取委の組織・体制を研究することにより、「差止命令の設計・執行に必要な人的・組織的資源とは何か」を探ることが有益である。差止命令の設計・執行は、机上の議論だけでなく、人的・組織的な受け皿があってはじめて機能するものだからである。
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