「アメリカにおける児童虐待に関する法制度の概要」(未公表)をまとめ、各種研究会で報告を行った。 1.1974年に成立し、1996年に改正された連邦「児童虐待の防止と対応に関する法(Child Abuse Prevention and Treatment Act、以下CAPTAとする)」は、各州が児童虐待の定義、児童虐待通告手続、子どもの代理人の選任等に関する立法を義務づけた。しかし、各州が制定する立法には裁量があるため、その内容には幅がある。そこで、50州法の(1)児童虐待の定義、(2)通告義務者、(3)秘密記録の閲覧ができる者、(4)親権終了の要件、(5)通告を怠った場合の措置について、その違いと特徴を比較検討した。 2.アメリカでは児童虐待が発見されてすぐに司法が関わるが、この一連の手続については未だわが国では明らかにされていない。本研究では、1997年に成立した連邦「養子縁組および安全な家族に関する法(Adoption and Safe Families Act、以下ASFAとする)」に基づき、児童虐待の発見後、家庭裁判所により行われる未決拘束審理、事実認定審理、処分決定審理、恒久的計画審理、親権終了審理、そして養子縁組審理に続く司法手続きについて、特にペンシルバニア州の立法をもとに図式化し、基本的な司法の流れを明らかにした。 3.CAPTAおよびASFAにより、州は児童虐待法制度を体系化することが義務づけられたが、州はそれに従った法制度を確立し、それを正常に運用させなければ連邦からの予算が生じない。そこで、連邦は州の児童福祉機関および裁判所の審理に関する連邦の審査しており、これまでにジョージア、ニューヨーク、カリフォルニア州など、いずれも150〜200万ドルの罰金が科せられている。現地で調査したアメリカの裁判所においても、その審査はシビアなものと言っているが、連邦と州との関係について、本研究では予算の観点から検討する重要性があることを指摘した。 4.親権を終了させ、子どもを養子縁組に出す期限に制限を設けたASFAは、一方では子どもの安全に迅速な対応をとるものと支持されているが、他方、批判も生じている。そこで、(1)ASFAには子どもの最善の利益項目が欠けている、(2)年齢による対応の違いを考慮していない、(3)裁判官、弁護士、ソーシャルワーカーの仕事の負担増などの点から、ASFAに対する学説上の批判を検討した。
|