わが国の児童虐待防止法の問題点と児童虐待対策の実態・運用の問題点について、アメリカ法を研究することにより検討を行った。(1)まず、わが国では通告義務が徹底されていない。虐待の疑いの段階で通告すべきこと、通告が誤報でも刑事・民事の責任は問われないことを明文化すること、そして通告義務に違反した場合の罰則規定についても今後検討していく必要がある。(2)次に、児童相談所(以後児相とする)の充実については、アメリカに比べ職員の数が圧倒的に不足しており、施設も整備されていない。早急な対策が必要である。(3)法的手続については、一時保護の後に司法審査を行わないわが国の現制度では親と子の適正手続の権利が守られていない。任意の行政不服申立ではなく、必須の司法審査によらなければ、児相は引取り要求に来た親に対抗する法的根拠を持たない。さらに、児相の計画(親子再統合か長期の引離しか)に対する司法審査や、28条審判後に施設から子が戻る場合の司法審査が現在存在しないため、法的根拠のないままで児相はその方針を親に説得できず、児相はその役割に矛盾を抱え、積極的な行動をとりにくい状況である。被虐待児の処遇について行政(児相)ひとりに任せるのではなく、司法主導による、法的権限に基づいた一連の手続体制が整えられるべきである。(4)最後に、司法審査の充実と共に弁護士の役割が重視されなければならない。現在弁護士の立場は曖昧で、親と児相と子との調整役として活動せざるを得ない状態だが、三者各自に代理人をつけるべきである。子どもの利益を守るためには、代理人の役割は重要である。親権喪失については子どもに申立権がないため、子どもの代理人がそれを行うことはできないが、民法は検察官による申立を認めている。実際、親族や児相が親権喪失申立に消極的な場合には検察官による申立が必要なケースが少なくない。今後、検察官の役割について検討していく必要がある。
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