研究概要 |
今年度は、我が国における生活妨害および名誉毀損の問題を取り上げて、差止的救済が今後進むべき方向性についての研究をおこなった。生活妨害と名誉毀損の救済方法については、民法上は、名誉毀損の救済につき損害賠償ならびに「名誉を回復するに適当なる処分」が規定されているのに対し、生活妨害においては法の欠缺のため一般不法行為法の問題とされている。しかしながら、両分野とも差止に関しては主として絶対権に対して認められるという構成がとられ、また人格権が問題とされるところに理論的連携があり、これは特殊日本的現象と捉えることが出来るのではないかと思われる。 これに対し、アメリカ法においてはより自由な発想がとられている。救済方法全般についてはDobbs, law of Remedies.名誉毀損の分野はRodney A. Smolla, Law of Defamationを中心に調査した。全体論としてコモン・ロー上の損害賠償とエクイティ上の差止の関係についても、エクイティ上の差止が二次的救済にすぎないと言ってしまうには問題があることが示されてきている。特に名誉毀損の救済については、たとえば反論や強制的撤回の方法などに関して、今日さまざまな実験がおこなわれている。 以上のようなわが国と比較法的研究に基づいて、今後の日本における差止的救済が絶対権的構成から離れてより自由な構成に基づいて認容されるべきではないかという方向性を見出した。
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