本年度における主要な研究実績は、2002年6月に東京で開かれた日本労使関係研究協会(JIRRA)の総会において、「IT革命と経営・労使関係:労働関係の変化-労働法の観点から」というタイトルで報告を行ったことである。その後この報告を基礎として、同年12月の日本労働研究雑誌(特別号)に「What is IT?-労働法の観点から」を公表した。 この学会報告および雑誌論文においては、現在の日本の労働法のすべての論点を、ITという観点から再検討した。様々な示唆が得られたが、特に注目すべき新たな知見は以下の2点である。 第1に、IT技術によって使用者による労働者の監督が強化されるという側面(たとえば作業のモニタリング)と、逆に監督可能性が低下するという側面(たとえばテレワーク)の双方があることを指摘した。 第2に、IT時代においては、労働契約上の付随的義務とされる労働者の「職務専念義務」について、判例が前提としてきたいわゆる「包括説」の立場を維持することの危険性を指摘した。すなわち、IT技術の進展により労働者の職場での一挙手一投足を使用者が把握できてしまう現在、あまりに厳格な職務専念義務概念を採用すると、労働者が使用者に全人格的に従属することを許容してしまうのではないかという問題の発見である。 本年度後半は、上記の学会報告と雑誌論文を基礎として、英語論文の執筆を開始した。来年度も科学研究費を使用してこの研究を継続し、米国のComparative Labor Law and Policy Journalにその成果を公表する予定である。 また1月には台湾大学法学部に出張し、王能君助理教授主催のワークショップにおいて上記のテーマについて報告を行った(基本的に日本語で、しかし英語と中国語も交えて報告した)。
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