研究概要 |
本年度における主要な研究実績は、米国のComparative Labor Law and Policy Journalの特集である"A Comparative Study of the Impact of Electronic Technology on Workplace Disputes"のための日本からのナショナルレポート(英語による論文)として、"The Impact of Electronic Technology on Workplace Disputesin Japan"を完成させたことである。すでに、2002年秋に脱稿した最終版を米国の編集部に提出済みである。他の国々からのナショナルレポートもようやく出揃ったので、(掲載予定時期を現時点で確定はできないが)遅くとも2003年中には特集号が刊行される予定になっている。 この論文においては、昨年公表した日本語による論文と同様に、現在の日本の労働法のすべての論点を、ITという観点から再検討した。様々な示唆が得られたが、特に注目すべき新たな,知見は以下の2点である。第1に、IT技術によって使用者による労働者の監督が強化されるという側面(たとえば作業のモニタリング)と、逆に監督可能性が低下するという側面(たとえばテレワーク)の双方があることを指摘した。 第2に、IT時代においては、労働契約上の付随的義務とされる労働者の「職務専念義務」について、判例が前提としてきたいわゆる「包括説」の立場を維持することの危険性を指摘した。すなわち、IT技術の進展により労働者の職場での一挙手一投足を使用者が把握できてしまう現在、あまりに厳格な職務専念義務概念を採用すると、労働者が使用者に全人格的に従属することを許容してしまうのではないかという問題の発見である。
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