1)本年度はまず、条約等により国際的に足並みをそろえた対応が求められている組織犯罪および犯罪収益の剥奪に関する研究を行った。これにより得られた結論は、法人に対する罰金額の引き上げおよびその範囲の拡大という犯罪化・重罰化という方法は、企業等の組織による不法な活動への対策として必ずしも有効ではなく、また理論的にも問題があるというものである。公表した論文においては、刑罰の形ではなく不正収益を剥奪する制度を諸外国なみに一般化すべきではないかとの提言を行った。 2)次に、2002年6月にイタリアで開催された、国際刑法学会若手部会セミナー「テロリズムの現代的諸側面」に参加し、第3セッション「国際司法共助」において議長を務め、各国の研究者および実務家と法制度に関する知識ならびに意見を交換した。 3)また、この機会に、昨年度から国際的汚職対策に関する共同研究を継続している参加者らと討議の時間をもつことができた。これを受けて、そのうちの1名を2002年11月に第17回国際刑法会議準備会議「国際経済活動における汚職および関連犯罪」のために日本に招へいし、ヨーロッパの近時立法の動向と意義について検討を重ねた。さらに、他の1名との共同研究の成果は論文(翻訳)の形で公表することができた。 4)これらと並行して、EUにおける刑事法の統一の動きに関する研究を継続しており、特に事実認定や被疑者の権利保障など手続法にかかわる問題を扱ったEC司法裁判所の裁判例を検討した。その成果として、日本における手続保障がヨーロッパの状況に比して不十分であり、国際的標準の観点からは今後の改善が望まれるものであることが明らかになった。
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