前年度の研究成果をふまえ、本年度においては次のような研究を行った。 第一に、様々な事件の生の記録を収集し、当該記録にあらわれている。訴訟関係者のコミュニケションの有り様につき分析を行った。例えば公判廷でなされた証人尋問のやりとりを、プロトコル分析の手法を応用して分析を行った。この検討は現在継続中であり、関係者のプライバシーに配慮した公開方法を検討中であるため、結果の公表は来年度以降に回さざるを得ない。もっとも、その過程において接した心理学者や隣接科学者のアプローチにつき、証人尋問に関する規則や実務慣行について十分にふまえられていないものが多く、データのコンテクストを見誤っている危険が高いと感じられたので、ある心理学者の事件分析に対する批判という形で訴訟関係者のコミュニケーションを分析する際に注意すべき点について問題提起を行った(中川孝博「証人尋問におけるコミュニケーション研究の方法-事実認定の適正化の観点から」法と心理2巻1号24頁参照)。 第二に、主として関係者のヒアリング調査を通じて、少年審判における検察官関与の問題点について検討した。事実認定の適正化をはかるために導入された検察官関与だが、実際に当初意図された機能を果たしているかにつき、調査を行ったのである。その結果、現在の実務の動向をみるかぎり、事実認定の適正化という観点からみて検察官関与には問題点が多いことが示唆された。少年審判における事実認定の適正化は、萎縮しがちな少年の意見表明を十全に保障し、裁判官等の訴訟関係人とのコミュニケーションが円滑になされることによってはかられるべきだが、この点に配慮しない検察官も多く、また、この点を十分に考慮しないで検察官関与決定を行う裁判官も多くいることが明らかとなった。この研究成果については、来年度に正式に公表される予定である。
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