大学院博士課程からの研究テーマであったフランス共和国の多元化とコルシカ島の自治について、2002年に「コルシカ関連法」が成立したこともあって、区切りとして著書「コルシカの形成と変容-共和主義フランスから多元主義ヨーロッパへ」を8月に刊行した。今年度前半の活動はこの著書の出版のために当てられた。これと並行する形で6月、カナダのプリンスエドワード島で国際島嶼学会が開催され、コルシカ島とカナダ・プリンスエドワード島のマイノリティであるフランス系アカディア人との少数言語の権利、具体的には法律によって少数言語や少数文化がどのように承認されているのかについての通時的比較研究をフランス語で発表した。この研究成果についてはフランス語で報告書として2003年3月にまとめている。 またこの学会の帰途、カナダ沖にあるラランス領の島嶼、サン・ピエール・エ・ミクロン諸島にて数日間、滞在調査をおこなった。おもな対象としては物流、外交、内政、歴史等である。人口数千人に満たないこの島は、地理的にカナダに近接しているにもかかわらず、人的交流はほとんどないことが分かった。観光目的で島を訪れるカナダ人(特にゲベック人)はいるものの、通勤や通学で両地域を行き来する者はほとんどいない。島には普通高校はないが、中学を卒業した島民のほぼすべてがフランス本土まで下宿通学し、カナダのハイスクールに通う者は全くいない。島内の金融、エネルギー、通信、保険その他重要な経済・サービスの規範はすべてフランス本土の方式に同一であり、島内にカナダ系企業は全くないため、ビジネスとしての交流はほとんどないものとおもわれる。島にはフェリーがないため、カナダナンバーの車は一両もない。ただし、物流としては、通関輸入しても安価な食料品や雑貨などはカナダからのものもある。電話、郵便料金はすぐ隣のカナダあてより数千キロ離れたフランス本国宛のほうが安い。テレビ、ラジオ受信方式はカナダとことなるため、地上波でカナダの放送を視聴することはできない。一方、フランスのテレビ、ラジオについても、本国からかなり離れているので、本国と同一のチャンネルを視聴することはできない。結果として衛星でカナダ、欧州の仏語放送を見るか、RFOという海外フランス専用の放送を見るという形をとっている。 上記以外の実績としては、10月に琉球大学で日本島嶼学会が開催され、「ヨーロッパ島嶼地域の自治」について報告をおこなった。
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