既存文献を中心に進めた本年度は、まず、開発援助を扱った広義の政治学の分野における研究が、(1)開発概念のブラック・ボックス化、(2)制度自体の考察の不備、(3)理論研究と実践研究の乖離、(4)文脈の軽視という問題を抱えている点を指摘した。これらを克服するため、開発のブラック・ボックス化に対しては、内容も実現方法も論争的であり、行為主体と対象が多元的に存在する開発のオープン・エンドな側面を強調した。そして開発援助が依拠する制度的基盤として、a)ドナーの知的・経済的優位性、b)管理の発想と技術的対応、c)ドナーの援助行政と途上国の開発行政の並行行政における責任の所在の不明確性、d)複合的性格(ドナー側の国内要因と国際要因の連動)、に着目し、このような制度的基盤の上に展開される開発活動が、自ら定めた課題に対応しているのかを、過去半世紀の経験に照らして分析した。 具体的には、開発の内容を定め、それに向けて具体的な活動を行うという開発援助のサイクルの中で、理論面・実践面の双方でhow-to of developmentに関心が収斂していることを示し、次いでそのhow-to of developmentの中から市民社会支援、参加型開発、ジェンダーを取り上げ、これらが従来の問題点を解決しているのかを検証した。その結果、how-to of developmentにおいても、現在の制度的基盤を前提とする以上、過去半世紀に渡って指摘されてきた問題が再生産されており、開発援助における「問題」は構造的に生み出されていることを示した。また、時系列に沿った分析と、統一視角による問題領域の横断的な分析の組み合わせは、特定の時期における個別の論点に限定した議論では欠落しやすい、問題が生産される議論の循環性をも示した。以上を、本年度分の作業として『開発問題の構造性の解明:開発援助を事例に』という形の論文にまとめた。
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