本研究では、金融、財政政策に関わっている重要な政治プレーヤーとして、自民党政治家、首相、大蔵省、日本銀行を想定し、各プレーヤーがどのような利益、目的を追求しているか想定する。具体的には、(1)自民党政治家の利益としては再選を想定し、有権者の要求に対応することを政策目的とする。次に、(2)首相の利益として政権維持を想定する。ここから二つの政策目的を導き出すことができる。一つは首相は日米関係を良好な状態で維持することを図り、次に第二の政策目的としては、長期的課題に取り組むということがある。これはなぜかというと、長期的課題に取り組んでいる間は、それを始めた首相に任せる他はないということになる可能性が高く(政権浮揚力とよばれることも多いが)政権維持ができるからである。 大蔵省、日本銀行は組織維持を利益として追求し、この結果、それぞれの組織は、財政均衡或は財政赤字拡大の防止であり、中央銀行の場合は物価の安定である。 ここで、財政、金融政策の形成にあたってどの政策目的が優先される形で一般的に政策が形成されるかについて説明したい。どの政策目的が優先されるかは各プレーヤーの政策のいずれが優先されるかはプレーヤー相互間の制度的関係によって決定される。自民党は首相を選出することで自民党に優意し、首相は内閣を率いるので大蔵省に優位し、大蔵省は旧日銀法のもとで日本銀行に対して優位した。この結果、(1)有権者の要求に対応することを、(2)良好な日米関係の維持、(3)長期的課題の達成、(4)財政均衡、(5)物価の安定の順で政策目的が追求され、上位順位の政策目的の達成と下位順位の政策目的の達成を共に行うことが困難な場合、上位順位の政策目的の達成が下位順位の政策目的の達成に優先される。 このように金融財政政策の一般的形成パターンをこれまでの研究で明らかにし、1987年から1988年にいたる金融政策が形成された経緯を明らかにした。1987年には円高不況の圧力の高まりの中で金融緩和、財政政策の拡大が行われ、同年秋には日米協調の観点からブラックマンデー後も金融緩和政策が維持された。1988年中は各政治プレーヤの政策目的が達成されていたので金融緩和政策が継続された。
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